その⼈が、花と向き合う時間を⼤切にしたい私は、花と無⼼に向き合う⼈を⾒ているのが好きでした。 ⽬の前の花と向き合い、形にしていく過程で、その⼈の眼差しはどんどん変化していきます。最初は「どうしよう」と迷っているけれど、いつの間にか花とその⼈だけの世界に没⼊し、花と対話しはじめるのです。 「この⼈とお花のかけがえのない時間を⼤切にしてあげたい」思い起こせば、⺟のそばにいる時も、教室でお稽古をしている時もずっとそう思っていたのです。私が届けたいのは、その⼈が楽しく花と触れ合う時間を提供すること。その思いに気づいた時、体の中の暗闇に明かりが灯ったような感覚になりました。 「⺟のように、師範を⽬指す⼈を育てなくてはいけない」と思うと苦しかった。けれど「花との時間を楽しむ⼈を増やせばいい」と思い始めたら、世界が違って⾒えはじめました。 ⺟と同じようにできなくてもいい。私の伝えたいことを伝えればいい。できることをやってみたらいい。⺟のようなこだわりは持てなくても、私なりのこだわりを⼤切にすればいい。⼈も、環境も、世界も変わっていく。伝統だって、同じものを受け継いでいくのではなく、その時代にあった⽅法を取り⼊れながら変わっていくもの。だからこそ、今まで続いてきたはず。そう思ったのです。
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